時事随筆

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ベーシックインカムは貧困層使い捨て制度になる?

日本でベーシックインカム(BI)を導入する事は、まず不可能だと考えています。ですが、仮に導入しても社会全体で貧困層を今以上に労働力として使い捨てる制度になるだろうと予想しています。
全国民に生活費支給 ベーシックインカムで何が起きた?:朝日新聞デジタル

anond.hatelabo.jp
www.businessinsider.jp
丁度、UBIについての記事が来ていたので、普段朧気に考えていた事を纏めてみます。

www.youtube.com
上の記事から辿って観たTEDのTalkでも、BIのすばらしさを説く訳だけど、私には正直こんなに楽観視できないのですよ。まだまだ、分析も社会的な実験、長期間取得したデータもないので結論は出ないでしょう。だから、私にとってもあくまで、現段階では失敗してしまうとしか思えないという事にすぎません。我が国でBIを導入すれば、貧困層使い捨て制度になるでしょう


BIについて、予算的な実現性まで言及している書籍などは少なくて、有名どころの一つとしては原田の書籍があるでしょう。
ベーシック・インカム ~国家は貧困問題を解決できるか 」原田泰 著
ベーシック・インカム|新書|中央公論新社

BIの利点まとめ

下記の「3 ベーシック・インカム構想における社会ビジョン」に列挙されてる事を抜粋します
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/634/634-01.pdf

  • 第1に,所得保障が性別や結婚,就労の如何を問わないことで,性別分業にもとづく「稼ぎ手と

しての男性+専業主婦としての女性」で形成される家族像の呪縛から解き放たれる。

  • 第2に,社会的貢献活動や文化・芸術活動など,これまで経済的に評価されないために十分な発

展がのぞめなかった領域が活発になることが期待される。

  • 第3に,労働市場の二重化によって不安定度が強まっている労働賃金に依存する生活から人々が

解放される。

  • 第4に,これまでの所得保障につきものであった資力調査によるスティグマや「失業と貧困の罠」

から社会保障制度を抜け出させ,社会保障において永らく争われてきた選別主義か普遍主義かの議
論を終わらせる。

  • 第5に,現行の個人所得税制で生活保障のために採用されている各種の所得控除をなくすことに

よって税制と社会保障制度の統合化がはかられる。

  • 第6に,セイフティ・ネットの考え方が変化し,個々人は自分の人生設計に応じて就労による金

稼ぎや社会貢献,生活の質の向上といった多様な道を選択できるようになる。

概ね、どの論者も口にするのはこのあたりでしょう。実現すれば、ユートピアです。

BIは実現可能なんだろうか?

実現するのでしょうか?原田の書籍も面白いんですが、予算の試算については、ツッコミどころがあるというか、むしろツッコミどころ満載なんですよね。書評記事でもないし、細かい所に突っ込んでもしょうがないので、私が持つ最大の疑問点をあげます。原田は、医療保険を廃止せずに、年金や生活保護などをBIに置き換える+一律30%の所得税で、国民一人7万円子供には3万円が賄えるとしています。BIに必要な支出が96兆円あまりになりますが、所得増税とBIに置き換えられる出費、および削減可能な歳出(願望)で賄えるという試算をしていて、これにはそれなりの説得力があると感じるかもしれません。


ですが、この試算には「絶対に考えなければならないはず」だけれど、考えてない事があるんですね。将来、少子高齢化した場合の医療費の増大と税収減です。現在の歳費で、願望の要素の強い試算を重ねて「可能だ」と言ったとしても、未来はどうでしょうか?BIは数年間できればいいんでしょうか?違いますよね、50年単位で運用できなければ失敗でしょう。

だから、必ず未来の事を考える必要があります。2025年には医療費は現在の40兆円あまりから54兆円に増加すると言われています。一方で、現在の税制のままでは、少子高齢化の影響で明らかに歳入は減少します。
「2025年問題」をご存知ですか? 「人口減少」「プア・ジャパニーズ急増」…(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(2/4)
この影響を勘案した上で、BIの維持は将来にわたって可能か?という議論がされていることを期待して読んだんですが、難しい話なのでしょうか。触れられていません。

50%の所得税を課すべしという小沢も、その論文の中でBIそのものの将来的な持続可能性については数値的な議論はしてません。誰もが疑問に思うけど、誰もが考えたがらない。
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/ReCPAcoe/34ozawa.pdf


数字がないので断定は出来ないですが、現在の人口動態を考えたら無理だろうなとは思っています。だからこそ、可否を判断する数字が欲しかったのですね。この本も3章しか読んでませんので他で触れられているかは知りません。データを使った実現可能性だけが知りたかったので。他にも根源的な所で、幾つも疑問があります。しかし、この本は、いろいろと考えてみるきっかけにはなりました。

仮に実現したとする

1億歩譲って、今後50年以上に渡ってBIを維持し続ける事が可能なシミュレーションが成立して、誰一人としてBIの実現可能性にケチは付けられない、やるべしとなって実行したとしましょう。原田や小沢、Bregmanが言うように、多くのメリットはあると思います。

しかし彼らが語らない悲しい予測も、同時に私には湧いてきます。ここからは私の勝手な予測ですけど、貧困層に定年以降は生きられず死んでいく人が増加するでしょう、そして老人の貧富の格差は更に増大するでしょう

原田試算で、一律7万円のBIで置き換わるもので大物は、生活保護雇用保険、年金、奨学金です。高収世帯ではBIは年金に変わるものとして、個人で投資運用を行うでしょう。子供のBIも学費として運用を行うはずです。ですが、収入が少なければ、その場しのぎで使うことになるのではないかと思います。定年後に十分な金を用意しておらず、BIにのみ依存する様な生活をするのは可能でしょうか?現在の生活保護ですら一部には最低限の生活も苦しいと言う声があるくらいですけど、7万円は生活保護に変わって、行き詰った老後を支える最後の守りになり得ますか?

BIをわが国で導入するメリットは、高齢者の医療費が自動的に大幅に削減された!貧困層は食いぶちが稼げなくなったら、ほっといても自然淘汰だよ。生活保護もないし、後はBIで自己責任だしやったね!なんて効果でしたって事になりかねない。他方で富裕層はBIを投資に回し、自己の収入はこれまで通りに使うことが出来ます。30年もすれば、引退後の貧困層と富裕層の生活の差は絶望的なものになっているでしょう。一方は、BIを得ても到底生活が成り立たず、一方悠々自適の生活となってしまう。セーフティネットとしての生活保護は残す?それならば所得税増税して、年金と生活保護を手厚くする方がよいのでは?

行きつく先は自己責任?

BIの行きつく先が、将来を見越した資金運用が出来なかったお前が悪い、という自己責任になるのならば、それはユートピアとはかけ離れていますね。

私は自己責任論者なので、障害のある人などは除いて、考える力のない者、適応する力のない者、これらは淘汰されてもいいと思うし、貧困など所詮は本人が望んでそうなったとしか思ってません。嫌ならば死ぬほど勉強すればよかったし、すればいい、人生はどこからでも巻き直せます。40で大学に入った人なんて腐るほどいる、50で起業して成功した人もいる。努力をしないのなら、それは貧困を選びとっただけだと私は思っています。貧困を脱するのに天与の才能なんていりません。ですが、そうは考えない人もいるでしょう?

原田は、ベーシックインカムで貧困を解消することが出来る他の方法では解消できない、と言いますが、私はむしろ「BIは貧困層を定年後に、捨扶持で切り捨てる制度になる」気しかしません。あまり簡単に考えたりしない方がいいのでは?