【大学無償化】を考える①~世界の大学無償国との、税制及び個人負担率の比較
大学無償化できない日本の民度が低いと日本国民をしばきたいというエストニア人が居たので、興味を持って調べてみました。また記事書きそうな気がするので①にしてみましたが、飽きたら①で終わるかもしれない。
www.from-estonia-with-love.net
例によって、【データ】と【客観的資料】を列挙して、最後に所感を述べます。読む人が日本人しかいないので、資料も日本語で纏めます。なるべく。日本が世界と比べて消費税が安い「貧しい」国である事は知っていても、税負担については高いとか低いとか、まちまちな印象をもってるのではないかと思うのですね。この際なので、無償化に必要な費用を考えることなく(それはまたいつかw)無償化を実現した国との税制を比較することで、無償化できる体力が日本にはあるのかを見たいと思います。
世界の大学無償国
国立国会図書館の「諸外国における大学の授業料と奨学金」より
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9426694_po_0869.pdf?contentNo=1
===== 表形式にするため地の文にはりますが、以下引用 =====
国名 | 給付制奨学金受給率 |
---|---|
エストニア | 15% |
オーストリア | 15% |
ギリシャ | 15% |
スウェーデン | 67% |
スロバキア | 12% |
スロベニア | 27% |
チェコ | 1% |
デンマーク | 100% |
ドイツ | 25% |
トルコ | 30% |
ノルウェー | 58.3% |
フィンランド | ほぼ全員 |
ポーランド | 20.1% |
日本
授業料(平均額) 535,800 円
給付制奨学金 無
===== 引用終わり =====
無償の国だけを列挙してみましたけど、それだけでも13か国もあります。基本的には授業料なしですが、細かく見ると制約があって、学費を払うケースもあるようです。詳細は pdf参照という事で。それにしても、給付制奨学金100%ってなんだよ・・・学振とれなかったら終わりの日本の研究者とは天地だな・・・と言う国の給付制奨学金の注釈をみてみましょう。
標準修業年限(通常、大学等は 3 年、高等専門教育機関は 3-4 年)+1 年を上限に、全学生が奨学金を受給できる。給付額は、親と同居か一人暮らしかにより決まり、一人暮らしの場合は月額 111,200 円。同居の場合は、2015 年下半期から世帯収入も考慮されるようになり、月額 17,300-47,900 円。子どもを養育する学生、障害のある学生等に追加給付がある。平均給付額は年額 1,300,500 円(2013 年)。
標準修業年限(通常、大学・単科大学は 3 年、ポリテクニックは 3.5-4 年)+5 か月を上限に、学生自身の収入が 1,663,500 円以下の学生は、奨学金を受給できる。給付額は、年齢や、親と同居か一人暮らしか等により決まり、月額7,800-47,100 円(1 年当たり 9 か月分のみ給付される)。一定の条件を満たす一人暮らしの学生には、家賃の 80%相当(上限月額 28,300 円)の追加給付がある。平均給付額は月額 63,500円(2013 年;ポリテクニックを除く)。
デンマークの平均給付額は年額 1,300,500 円(2013 年)は、が、学振の方が良いもん・・・って強がりも一気に凍るレベルですね。これは羨ましいと思うのは当たり前です。
消費税の国際比較
教育無償化や、恵まれた奨学金制度を実現するためには、それなりの税制が必要となるはずです。なので、まずは良く知られているOECD各国、特に欧州の消費税の高さを確認してみましょう。
画像参照元
付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の国際比較 : 財務省
===== 引用終わり =====
ヨーロッパ諸国が軒並み20%を超える消費税率であるのに比べて、日本は8%です。当然ですが、大学無償化の13か国に日本よりも消費税の安い国は一つもありません。
それにしても、カナダの5%は安いですね。カナダの学費がどうなっているかというと、平均額で570,800円です。学生にとっての神の国デンマークの消費税が25%でやはり高く、フィンランドも同様に高く24%です。これよりも高いのはハンガリーの27%しかありません。ハンガリーには住みたくないですねwちなみに、エストニアは20%でした。
国民消費に対して、17%分もの歳入の差があれば、財源に大きな差がある事は自明です。日本の場合は1%で2兆円の増収です。経済が影響を受けて、こんなに上手く行くはずないですが、17%あげれば34兆円の増収となる。ここまで出来れば、教育無償化なんてお茶の子です。消費税率の差による国庫の豊かさの差は大きいでしょう。
所得税率と個人負担率の国際比較
国のおおきな財源として、所得税があります。その所得税と、国民負担率を見てみる事で国家と個人との関係性が少しわかります。
===== 以下引用 =====
画像参照元
Taxing Wages 2017 - en - OECD
===== 引用終わり =====
表は各国の平均所得の独身者における税&社会保険負担を比較して、多い順に並べたものです。トップはベルギーの54%、高い。OECDの平均負担率が36%であるのに対して、日本は32%にとどまります。日本の税負担はあまり高くはないと言っていいでしょう。所得税でみてみると、トップはやはりデンマークの35.9%です。奨学金給付率100%は伊達や酔狂でやってないですね。日本の数字が6.8%という事から、個人に対する平均的な負担割合という事だと思います。日本は累進課税ですし。ちなみにエストニアは、平均負担率38.9%で、所得税が12.5%となっています。一律21%だけど貧困層に対する控除が効いているのだとおもいます。日本の倍ですね。
しかし、上記の表では不思議なのはフィンランドで、大学無償化と奨学金ほぼ全員に支給をしてますけど、所得に対する負担はそれほど大きくもないし所得税も高くはないのですよね。更には、デンマークの社会保険負担の割合の低さが気になります。なので、別の資料を漁ります
GDP比に対する国民個人の負担率ではどうかというと、財務省のデータでは次のようになっています。個人負担率とは、国税と地方税とを合わせた租税負担の国民所得に対する比率である租税負担率と、年金や医療保険などの社会保障負担の国民所得に対する比率である社会保障負担率との合計の事を言います。日本は大学無償13国と比較しても、個人負担率で日本を下回る国はありません。日本よりも安い税で大学無償化を実現してる国はないという事です。
そして更に分かった事は、デンマークとフィンランドでは租税負担と社会負担のバランスが明らかに違う国だということです。似た様な高福祉国家でも、デンマークは個人の租税負担が著しく高い一方で社会保障負担は低く、フィンランドは社会保障負担も高い国であるということが言えそうですね。
参照元
国民負担率(対国民所得比)の国際比較(OECD加盟33カ国) : 財務省
デンマークの68%というのは、凄いですね。エストニアは44.4%でした。先ほどのデンマークの負担率との齟齬ですが、デンマークの地方税の高さがあるからです。これで先ほどの疑問は解消されました。
将来住むならここ!世界の所得税比べ(2) [社会ニュース] All About
「デンマークにおける国と地方の役割分担」
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk079/zk079_09.pdf
OECD各国の税収構成比
直接、間接税がどの程度個人への負担を強いているか?ということは、これまで見たデータからわかります。国が個人から得た税は、国家予算の中でどのような割合をしめるのか?をみてみます。これによって、個人から絞ってるのか、企業から絞ってるのか?という傾向などが見えてきます。
参照元:
OECD諸国における所得・消費・資産課税等の税収構成比の国際比較(国税+地方税) : 財務省
デンマークの個人への負担の高さは特筆にあたいする水準です。一方で日本は、明らかに企業への負担を多くとってます。社会福祉は企業負担によって賄われる傾向の強い国という事は言えそうです。例外として、資産課税が高いですね。累進課税と合わせて、富裕層への締め付けの強さを伺わせます。
エストニアは、消費課税率が高い半面で所得への課税負担は高くありません。これは消費に対する課税で、所得税の負担の低さをカバーしてると言う事でしょう。
日本は大学無償化できるのか?
日本と学費無償国の税制を比較してみました。また国民負担を比較してみました。日本は大学無償13国と比較しても、個人負担率で下回る国はありません。という事で、結論としては、無い袖は振れません。
もちろん個別に費用を見ることが詳細な議論には必要であることは言うまでもないですが、税制の傾向一つを見ても「日本の個人負担は高福祉国家と同様のサービスを要求する水準にない」事は言えます。政府は、その縛りの中で工夫をしている事を理解する必要はありますね。
デンマークって国は、なんかすごい国ですね。社会保障の個人負担内訳が著しく率い半面で、所得税などの税負担は世界でも屈指です。ルクセンブルクと同様に、国が保険会社そのものといってもいい「ゆりかごから、棺桶まで」を体現した税制となっています。私はそんな国には住みたくないですけど、ここまで割り切れるのならば、超高負担・超高福祉国家として充実した社会保障制度の中で安心した生活を送れそうですね。大学が無償で、奨学金が全員に出るのなんて当たり前です。
エストニアは、ヨーロッパの中でも変わった国だという印象を受けます。一律21%税率で高所得者を優遇し、法人税率を下げる事で個人事業主などを優遇してます。つまり金持ちが、どんどん国に入ってきてほしい、富裕層を増やすことで全体的な収入を増やしたいと言う様な、カナダにおけるモントリオールの様な存在になっています。教育水準もかなり高い国の一つなので、IT立国としてやっていこうとする方針が税制からも見えます。小さな国ですから、小回りが利くのはあるでしょうが、しばき隊員にしては良い国を移住先に選んだと思います。なので、もう帰ってこなくていいです。
www3.nhk.or.jp
そりゃ、こうなりますね。まずは税制を改めるか何かする事で、国民負担率をあげ、税収をあげるしか方法はないのでしょう。これを国債などで実現して行くのは、無茶がある様に思います。安倍政権の政策の中では、数字を追って、無理だと思えば反対する可能性の高い政策になりそうな気がしますね。私個人の希望で言えば、旧帝と一期校までを無償化する、限定的な国立大学無償化であれば、エリートへの投資という事で賛成します。成績によって給付型奨学金を出すのもいいでしょう。
消費税、あげないと駄目では?15%いると思いますよ。インタゲでGDPをあげて法人税で稼ぐスタイルでは、大学無償化はおろか将来的な少子高齢化時代の医療費高騰には耐えられないと思いますが、政府と財務省はどういうかじ取りをしようとするのか、今後も数字を追いたい所です。敢えて日本がモデルとして考えたらいいのは、デンマークではなくフィンランドの税制になるのでしょう。租税負担と社会保障負担のバランスが似ていますから、国の経営を考えた時に参考にしやすいですね。
個人的な所感、そして予測です。大学無償化を消費税率アップの理由にする気がしています。